物語を紡ぐ器
『物語を紡ぐ器』は、器と食材、あるいは器同士の組み合わせによって、新たな意味が生まれる器です。
それ自体が完成されたデザインではなく、使い手の解釈によって、その都度異なる物語が生まれます。
例えば、山の形をした器にピンクや緑のお菓子を盛れば、春の山景色が浮かぶかもしれない。
または、山の形をした器に赤いお菓子を盛れば、秋の山景色が浮かぶかもしれない。
桃・雉・猿・犬の4枚を組み合わせれば、桃太郎の物語が生まれる。
しかし、桃の器だけを使い、そこに金柑を盛れば、それは桃の節句の風景へと変わる。
器と料理の組み合わせによって、連想される世界観が移り変わることこそが、この器の本質です。
「物語を紡ぐ器」は、古典文学や民話、季節の風物、行事などをもとにデザインされています。
特定のテーマに沿って作ることもありますが、基本的には使い手の自由な解釈で、物語を組み立ててほしいと考えています。
こうした「物語を紡ぐ」感覚は、日常の食卓で自然に楽しむことができます。
服のコーディネートのように、自分のセンスを反映する表現方法のひとつですが、外に着ていく服とは違い
器のコーディネートは卓上で完結し、気軽に自由な発想を試せるものです。
皿1枚に何を盛るかを考えたり、数枚の皿と料理でストーリーを組み立てたりすることで
ちょっとした行事の演出や茶事の設えにも活かすことができます。
そして、こうした体験を繰り返すことで、プロの料理人やお店の意図、美術作品の構成などを読み取る感覚が育っていくのではないか。
器と料理を通じて、「想像する力」を鍛えること。
それが「物語を紡ぐ器」の持つ、もうひとつの役割なのです。

波の景色を模った八寸皿
たとえば笹と料理を盛り付けて、船が波間を漂う景色を表現したり
稚鮎を模したお菓子をのせて
初夏の渓流の爽やかな風景を楽しんでみてはいかがでしょうか。

楓を模った八 寸皿
楓は秋の印象が強いモチーフですが
春の山菜を取り合わせて新緑の季節感を演出したり
透明感のある涼菓を盛り付けて爽やかな景色を描くなど
自由な組み合わせで
新たな季節の情景を発見してみてはいかがでしょうか。

豆皿
山の形と枯れた風合いの豆皿に、色鮮やかなお菓子を盛り込んみ
『春山の草花の賑わい』を表現しました。

例えば昔話
『桃太郎』をテーマに、桃、犬、猿、雉の豆皿を組み合わせました。
桃は桃の節句に、犬、猿、雉は干支物として楽しむなど、それぞれの形に込めら れた意味や季節感を自由に想像してご覧ください。

例えば和歌
「山・渦・紅葉・楓」の豆皿を組み合わせて
『嵐吹く みむろの山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり』
和歌の情景を表現しました。

固定された組み合わせ
京都のgalleryで、落語とのコラボレーション企画が開催された際
『はてなの茶碗』を題材に制作した作品です。
「茶碗・茶巾・油壺・小判」の組み合わせ。
はてなの茶碗:あらすじ
茶屋で「茶巾さん」と呼ばれる茶道具の目利きが熱心に
眺めていた茶碗を、名器だと思い込んだ油屋が買い取るが
実は「ただ漏れるだけの安物」だった。
しかし、この勘違いが面白い話として評判となり
公家を通じて天子さまの耳にも入り
ついに茶碗は「はてなの茶碗」として名品扱いされる。
味をしめた油屋は、今度は「漏れる水瓶」を持ち込み
さらなる儲けを企む。